大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成7年(ワ)14726号 判決

②事件

原告

日本信販株式会社

右代表者代表取締役

澁谷信隆

右訴訟代理人弁護士

高橋孝志

横山雅文

被告

尾崎千之

主文

一  被告は、原告に対し、金七七三万九五七四円及びこれに対する平成六年一〇月二八日から支払いずみまで年29.2パーセントの割合による金員を支払え。

二  被告は、原告に対し、昭和振興株式会社(南箱根ゴルフ倶楽部)に対して、別紙ゴルフ会員権目録記載のゴルフ会員権につき、原告への名義書換手続をせよ。

三  原告のその余の訴え(第三者名義への名義書換手続を求める部分)を却下する。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

一  原告は、主文一項同旨及び「被告は、原告に対し、昭和振興株式会社(南箱根ゴルフ倶楽部)に対して、別紙ゴルア会員権目録記載のゴルフ会員権(以下「本件会員権」という。)につき、原告又は原告より右会員権を取得した第三者への名義書換手続をせよ。」との判決を求め、請求原因として別紙のとおり述べた。

二  被告は、請求棄却の判決を求め、請求原因事実については、明示の認否をしなかったが、その訴訟対応(請求原因事実が間違いないことを前提として和解を求めていること)に照らし、これを明らかに争わないものと認め、請求原因事実をすべて自白したものとみなす。

三  右によれば原告の請求は、第三者名義への名義書換手続を求める部分を除き理由がある。

四  なお、原告のゴルフ会員権の第三者名義への名義書換手続を求める訴えについての判断は、以下のとおりである。

1  現行の民事訴訟法は、特定の当事者間の権利義務関係について、その存否を判断し、当該当事者間において給付を命じ、権利義務を確認し、法律関係を形成するという制度を採用している。

2  ところで、本件訴訟において、現時点では、特定の第三者が存在していないと考えられるところ、本件訴訟での原告の請求は、裁判所に対し、右のような特定もせず本件訴訟の当事者でもない者(したがって、本件のゴルフ会員権の権利者でもない。)を、あたかも現在あるいは将来の権利者のように取り扱い、その者に当事者と同様の立場で権利を与えることを命ずることを求めるものであって、右のような、現行の民事訴訟法の予定しない訴訟の形態であるというべきものである。

3  原告が、右のような請求をする理由は、原告が、被告に対する求償金の担保として取得した本件会員権を第三者に処分して求償金の実質的な回収を図る際の処分を円滑に、かつ無用の出費(名義書換料)なく進めるためであると考えられ、その点では、本件のような請求の必要性があることが理解できないわけではない。

しかしながら、同様の効果は、原告への名義書換を命ずる判決に承継執行文を付することや、処分先の第三者に原告からの権利の移転を証する書面を交付することでも、十分に可能であると思われる。そうすると、右の必要性は、あえて本件請求のような超法規的ともいえるような請求を立てることを肯定するに足るものとはいうことができない。

4  また、原告は、中間省略登記の有効性が認められていることをも、右の請求の適法性の裏付けとしているようである。しかしながら、ここでの問題点は、登記になぞらえていえば、中間省略登記における中間者が、現在の登記名義人が中間省略登記に同意していることを理由に、第三者(それも将来の第三者である。)のために登記請求訴訟を提起できるかどうかという問題であって、中間省略登記の有効性の議論とは無関係である。そして、登記請求訴訟の場合に、右のような訴訟が提起できるという考え方は、にわかには肯認し難いものといわなければならない。

5  よって、原告の本件会員権の第三者名義への名義書換手続を求める訴えは不適法である。

五  以上によれば、原告の本件訴えのうち、会員権の第三者名義への名義書換手続を求める訴えの部分は不適法であるからこれを却下し、その余は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官松本清隆)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例